園長ブログ

目に見えない世界

2013/01/10

京都新聞の新春特集「対話のカタチ」に掲載された河合俊雄氏の「グローバル化の中で」という記事が興味深かったので、取り上げてみました。

グローバル化に反比例して人々の視野は狭まり、自分に近いグループのことしか気にしなくなる。その背景には、同心円的な広がりをもつ共同体の崩壊があるといいます。河合氏はこうも言っています。健康な共同体がなくなってゆくと、それを保つため「暴力」という反動が生まれる。だからいじめ問題が絶えない。

共同体の崩壊は人と人との実質的なつながりが希薄になり、個々人がバラバラになってしまう状態なのでしょう。西洋では個人主義が強くても、個人がよって立つ基盤に「神につながる」という普遍性が残されました。遠くに、もしくは目に見えない世界にある普遍性がなくなると、人々は身の回りの自分に近い存在に依存するのでしょう。

河合氏は、「目に見えない世界」の普遍性に注目し、「自然科学で全てがわかるだけでは、人は生きる気力が湧きません。むしろ自然科学を超越した「全然違う次元」を知り、触れることで豊かになる。目には見えない夢や理想が生きる力になるのです。」と言っています。

河合氏はかつては宗教が果たしていた、目に見えない世界(異次元)とつなぐ役割を文学や芸術といった新しいクリエーションに求め、例えば村上春樹氏の小説を心理学的に読み解くといった研究を進めていらっしゃるそうです。

日々に追われていると、ついつい目の前で起こることだけに目を奪われがちですが、本来見つめるべきは、見えないものであったり、遠くにあるものなのだと思います。足下のでこぼこ道にばかり気を取られていて、遠くの目に見えないもの、普遍性を見据えることを忘れてしまわないようにしたいものです。

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