園長ブログ

ことばをまなぶ 3

2013/09/02

NHKの番組、スーパープレゼンテーション 必見!赤ちゃんの脳は外国語をどう学ぶ?で取り上げられていた、ワシントン大学学習脳科学研究所所長パトリシア・クール博士の“The linguistic genius of babies”というプレゼンテーションがあります。言語習得を中心とした子どもたちの学習能力の研究から、赤ちゃんの言語習得についての研究成果をわかりやすく伝えてくださっています。

赤ちゃんは、どんな言語でも聞き取ることができる「世界人」ですが、大人は聞き取ることができません。では、いつ「世界人」ではなくなるのでしょうか。それは1歳になる前です。とクール博士はおっしゃっています。前回紹介した “L” と “R” を聞き分ける実験などの結果からそれがわかるのです。生後6カ月〜8カ月くらいだとアメリカの赤ちゃんも日本の赤ちゃんも “L” と “R” を聞き分ける能力に差がないのに10カ月〜12カ月になるとアメリカの赤ちゃんは “L” と “R” の聞き分けがより良くできるようになっているのに対して、日本の赤ちゃんは聞き分けができなくなってきているという実験結果は、赤ちゃんが母語習得への準備を始めているということです。

この2カ月の間に赤ちゃんには一生懸命にことばを聞いて脳内で統計を取っているそうです。英語で赤ちゃんに語りかけるアメリカ人のことばには“L” や “R” の音がたくさん出現しますが、日本語を話す日本人のことばには日本語独特の “L” と “R” の中間の音、日本語独特の “R 音”が多く出現します。これを聞いて赤ちゃんは脳内で統計を取り、その統計が赤ちゃんの脳を変化させて、「世界人」ではなくなるのです。

では、バイリンガルの環境ではどうなのでしょうか。この月齢のアメリカ人の赤ちゃんに、中国語を聞かせる機会を与えた実験では、中国語特有の音も聞き分けられるようになったそうです。

しかし、ここには重要な要素があります。それは、中国語を話す人が直接、赤ちゃんに話しかける必要があるのです。音声だけで中国語を聞かせる、もしくは映像メディアを通して話しかけた赤ちゃんは中国語を聞き分けるようにはならなかったそうです。生身の人間が直接話しかけたときにだけ、聞き分ける事ができたのです。パトリシア・クール博士は、これは社会脳が赤ちゃんに統計を取らせるからだとおっしゃっていました。

赤ちゃんが、言語を習得するのは、自分が所属する社会でより良く生きてゆくためなのです。その社会は生身の人と人の関わりということです。決してぬいぐるみとの関わりでもないし、モニターを通した関わりではないのです。この話を聞いて赤ちゃんは「社会を構成する」という目的のために、自分の所属する社会の環境に最適化できるように、できているのだと思いました。母語に最適化するのは、自分の所属する社会により最適化するということなのです。ですから、生身の人間と対面したときにのみ、脳が統計を取ったのです。

社会には、多様な人がいますし、多様な人と関わってより良く生きることが必要になってきます。ある年の4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの人だけが集まる社会というのは、日本の学校に限られた非常に特異な集団です。学校を卒業して社会に出れば、様々な年齢の人と関わりあって生きてゆかなくてはなりませんし、それが自然なことです。だからこそ、乳幼児期には、異年齢のいろいろな人と関わる事のできる環境を用意しておかなくてはならないと思いました。

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